パチンコ屋さんの景品買取所うんちく その2「なぜパチンコ・パチスロは賭博ではないのか」
元パチンコ店員、元パチンコ店店長、元パチンコ店運営会社の部長という経歴の行政書士である私が、気が向いたときにパチンコ店の裏話的なことを書くコーナーです。
前回は、パチンコ店における「景品買取所の重要性」についてお話ししました。
今回は、いきなり脱線することになりますが、「景品買取所」の本質に迫るために、どうしても語っておかなければならないこと
「なぜパチンコ・パチスロは賭博ではないのか」
について、触れておきたいと思います。
賭博が禁止されている日本において、ギャンブルであるパチンコは違法ではないのか?
→パチンコ・パチスロは賭博ではないから。
→では、なぜパチンコ・パチスロは賭博ではないのか?
こういうお話です。
まず、日本において「賭博」とはどういうことを指すのか、見ていきたいと思います。
刑法185条
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
これを見ても、賭博について詳しく書かれていません。
しかたがないので、旧刑法を見てみます。
偶然ノ輸贏ニ関シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ為シタル者ハ五十万円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス但一時ノ娯楽ニ供スル物ヲ賭シタル者ハ此限ニ在ラス
(ぐうぜんのゆえいにかんしざいぶつをもってはくぎまたはとじをなしと読みます。)
この記述も???となりますが、これに判例も加えて噛み砕きますと、賭博とは、
「財物を失うリスクを各々が負担した上で、偶然の出来事の結果によって勝敗を決し、これにより財物の得喪を生じさせる行為。」
(ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。)
ということになります。
どうやら、賭博を成立させるためには、3つの赤い要素(+青い要素)すべてがそろわないといけないようです。
逆に言えば、これら要素のうち、1つでも欠けていれば賭博に当たらないということでしょう。
例えば、忘年会や結婚式の2次会などで行われる「ビンゴゲーム」ですが、偶然の結果、財物の得喪がありますが、参加者はリスクを負っていないので、賭博とは言えません。
例えば、「ボーリングで勝ったらジュースをおごる」というようなことが、一般的に行われていると思いますが、これは①結果が参加者の技量に大きく左右されており、偶然の出来事の結果とは言えず②しかも、ジュースという一時の娯楽に供するものを賭けただけ、ということで、賭博とは言えないでしょう。
では、パチンコ・パチスロはどうか?
結論から言いますと、パチンコ・パチスロは意図的に賭博の構成要素を避けるよう、制度設計されています。
1.偶然の出来事
パチンコやパチスロは「遊戯」ではなく、「遊技」と表現されます。
パチンコ台やパチスロ台は「遊技機」、ホールは「遊技場」、お客は「遊技客」、パチンコ屋さんの組合は「遊技業組合」。
これは、遊技の結果は、偶然によるものではなく、そこには「技術介入性がある」ということを示しており、制度設計もこれを意識したものになっています。
風適法施行規則では、その第8条で、パチンコ店に設置してはいけないパチンコ台、パチスロ台として、次のように定めています。
【パチンコ】
・客が直接操作していないにもかかわらず遊技球を発射させることができる
・客が遊技球の発射位置を自らの技量により調整できない
・客が発射した遊技球の位置を確認することができない
・その他、客の技量が遊技の結果に表れず、偶然もしくは客以外の者の意図により遊技の結果が決定されるおそれがある
【パチスロ】
・リールの回転停止を客の技量にかかわらず調整できない
・リールの回転が著しく早い(目押しできない)
・その他、客の技量が遊技の結果に表れず、偶然もしくは客以外の者の意図により遊技の結果が決定されるおそれがある
つまり、パチンコホールに設置しているパチンコ台、パチスロ台は、すべて技術介入性があって、上手な人はたくさんの球やメダルを得ることができ、下手な人はそうではない、そういう遊びであり、球が得られたこと、得られなかったことは、偶然の結果ではない、ということです。
そして、これを徹底するために、警察はパチンコ店に対して、
・パチンコ台のハンドルに硬貨などを挿入することでハンドルを固定したまま遊技することを禁止(客の技量に関係なく一定の位置に球が発射されるため)
・パチスロ台のいわゆる「目押しサービス(スタッフが客の代わりにストップボタンを操作して絵柄をそろえるサービス)」を禁止(客の技量に関係なく絵柄がそろうため)
するよう指導しています。
2.一時の娯楽に供する物
パチンコやパチスロの遊びは、「得た球やメダルの数に応じて景品をもらえる」という遊びです。
つまりは財物の得喪があるということですが、提供される景品が「一時の娯楽に供するもの」の範囲となるよう、制度設計されています。
風適法第23条
ぱちんこ店等を営む者は、次の行為をしてはならない。
一 現金又は有価証券を賞品(=景品のこと)として提供すること。
二 客に提供した賞品を買い取ること。
判例では、例え1円であっても、現金を賭した場合は賭博に当たる、とされていることから、このようになっています。
また、営業者が提供した景品を営業者が買い取って現金化すると、それは現金を賞品として提供していることと変わりがないからこのような規定になっています。
(つまり、景品買取場の中でお仕事をしている方は、パチンコ店とは関係のない、別の会社の方でなければならないということです。)
風適法施行規則第36条
2 パチンコ店の賞品の提供方法に関する基準は、次のとおりとする。
ニ 提供する物品は、客の多様な要望を満たすことができるよう、客が一般に日常生活の用に供すると考えられる物品のうちから、できる限り多くの種類のものを取りそろえておくこと。*1
3 賞品の価格の最高限度に関する基準は、9600円に当該金額消費税等相当額を加えた金額を超えないこととする。
*1:賞品の取りそろえについては、条文上は努力義務のようになっていますが、通達で品目数、品種数を具体的に定めています。
以上のように、パチンコという遊びが賭博にならないよう、先人が一生懸命制度設計をしたわけですよ。
で、ただただその先人の制度設計に甘えているわけではなくて、運用もその意図を維持していかなければならないということで、一般の方ではあまりご存じではない涙ぐましい努力を業界全体がしています。
次回は、本筋に戻って、景品買取場でどのような涙ぐましい努力が行われているか、お話したいと思います。